「はい、西牧塗装店です」
「いえ、社長ですね」 「あ、山田さん。毎度ありがとうございます。塗装のご用命ですか」 「もういいですよ。22日なんですけど、休みます」 「風邪ですか?」 「わかりますか?」 「わかるよ。鼻声だもん。いつまでも裸でいるからだよ」 「いえ、そんなことはないです。自分は事が終わったら、さっさと離れるタイプですから」 「あんれ、冷たいんだね〜。人柄を見た気がするね」 「社長は、どうなんですか?」 「オレな〜んか、いつまでもベッタベッタだよ。あははははは」 「ウォッホッホッホッホ。嘘がバレバレですね」 「熱が出ましたか」 「ええ、結構」 「じゃあ、子種が死んじゃいましたね」 「社長、そこまでじゃあないですよ。ばい菌じゃあないですから」 「そうなんだ。それはお大事に。それにうっかり寄り添って、移されても困るから」 「社長。寄り添いませんよ」 「そうだよね。川もヒドイことになってるし。実はオレも川越まで行く用事が出来ちゃったんで」 「何ですか?」 「お菓子横丁で駄菓子でも買おうかと。童心にかえって。ウォッホッホッホ」 「社長、違いますよ。何ですか?川越は」 「実は、良くスノーボードに来ていた福ちゃんが、イケメンの旦那さんと店を出したんだよ」 「ほう!ほうほう。どんな?」 「ワインカフェ」 「え?ワインとコーヒーだけ?」 「いやいや。言葉が足りなかった。昼間はカフェとランチ。夜がワインも飲めてディナーも楽しめる」 「オシャレじゃないですか〜ですが、社長には似合いませんね」 「似合う似合わないじゃなくて、知人のお店だから1回は行かないと申し訳ないだろ。なんなら、かわりに山田君が行ってきてくれてもいいんだよ」 「社長、自分一回も会ったことないですけど」 「そうだった?」 「ええ。話には聞いてたんで、会ったような気がしてただけで、一度も会ったことないです」 「そうか。じゃあ奥方と一緒に行ってくるよ」 「ええ、いいじゃないですか。奥さんよろこぶと思いますよ。お酒も飲めるし」 「あ〜うちのはビールとブランディ党だから、ワインは飲まないらしい。たぶん酔わないらしい。ガソリンにならないんだよ」 「ウォッホッホッホッホ。それは凄いですね。では、楽しんできてください」
「よう!ひさしぶり」 「社長!ごぶさたしてます」 「って言うか、先週来たんだよ。木曜日」 「え!?うち…」 「わかったよ。木曜日が定休日だって。そんなの聞いてないよ。葉書にも書いてないし」 「あの〜フェイスブックで情報を発信してるんです…」 「そんなものオレが見ると思っていたのか。だいたいガラケーだし。でもタブレットは持ってるよ」 「じゃあ、それで見てくださいよ」 「たわけ!だから見ねえっ言ってんだろ」 「じゃあ何でタブレット持ってるんですか?」 「そりゃあ、おめえ動画がさくさく見られるからだよ」 「あ〜まだやってたんですね。スノーボードとSK8」 「そういう福ちゃんは引退なの?3年一緒に行ってないけど。4年ぶりに見たよ」 「い〜え、引退はしてません。先にこっちかな〜と思って」 「お〜言ってたよね『いつかはお店を』って」 「はい。遂に」 「イケメンのウラ若い旦那さんはソムリエでシェフだったよね?イタリアン?」 「いえ、フレンチです。フランスにいたんですよ」 「シェー!おフランス帰り?」 「はい」 「あれ?そんだけ。シェーについて聞かないの?」 「旦那さん、長くなるからやめときなさいよ。福ちゃんにも旦那さんにも無理よ。若いんだから」 「あ、奥さん、ごぶさたしてます。今日はありがとうございます」 「い〜え。素敵なお店にこんな旦那で。海にいる小僧みたいでしょ」 「いえいえ。全然平気です。社長はいつもそれですから」 「いろいろ持ってるのよ。靴とか服とか。でもね、結局これなのよね。その中でもTPOをわきまえていると本人は言ってるのよ。どこが!?」 「いいんだよ。余計なことは。で、ときに福ちゃんもパティシエだよね?」 「はい。正確にはパティシエールですけど。女性だから」 「それは年は関係ないの?体型とか?」 「社長、セクハラです」 「いいんだよ。オヤジだから」 「ダメよ。オヤジでも。でも残念ね、先週渋滞でお腹空いちゃったから、今日はそれに備えて食べて来ちゃったのよね」 「あそうだったんですか。すみません。先週は休んでて」 「いえいえ、いいのよ。『行く前に調べてから行った方がいいんじゃないの』って言ったら『やってるに決まってるだろ』って言うんんですよ。自分は引っ越してすぐに『定休日です』って休んでいたくせに」 「あははははは。社長っぽい」 「恐縮です。お褒めに預かりまして」 「全然褒めてないですけど、どうしますか?飲み物とか食べ物とかは?」 「おっと、その前にみんなからお祝い預かってきたから、一言言っておいてくれよ。じゃないとオレが『運転資金』とか言って横領したように思われる」 「あははははは。ありがとうございます」 「アタシ、アイスコーヒー」 「オレも。と、おすすめケーキ。半分食えよ」
「ここは眺めもいいし、風が爽やかだね、3階だから」
「ほんとね。昔いろいろ行ったよね?優しかった頃」 「ヤベ。今でも充分優しいですよ」 「それは、ネコにでしょ。アタシはネコ以下」 「お待たせしました〜」 「お、助け舟。どれどれ。ウマ!」 「おいしい。コーヒーも」 「メシ食ってきたことを後悔しちゃうね。おめえはデンデンムシ食うんだろ」 「また〜デリカシーのない。エスカルゴでしょ。若い頃は食べたわよ。今は無理。たぶん」 「あ〜花粉症になってから、アレルギーがヒドイ。刺身もダメだし」 「さみしいわよ。アタシは」 「すみませんね。何食っても平気で」 「これはみんなにも言っておかないといけないわね」 「よう!福ちゃん、これで帰るけどさ、みんなに行くようにって連絡しておくよ」 「ありがとうございます」 「じゃね〜。あ、旦那さん、結婚式以来ですね」 「ありがとうございます」
「あ〜堪能堪能」
あとがき
「お、返信が来た。なになに。とってもおいしかったです。野菜料理が多いので参考になりました。あと、社長のコメントがとっても素敵でした」
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