「社長、着いたよ」
「え!?八郎近いな。安達太郎から記憶がない。申し訳ないね、先輩」
「だ〜いじゅだよ。その分、帰り頼むよ」
「任せてください。国見まではがっつり運転しますから」
「いや〜3年ぶりだよ。楽しみだな」
「1つ心配があるんですけど」
「何が?」
「キャスティングです」
「だ〜いじゅだよ。任せておけよ。ハイテクリールがあるから」
「(大丈夫ってことか!?『だ〜いじゅだよ』ってのは) それって、もしかしてシマノのDCリールですか?」
「お〜それだよ。全然バックラッシュなんかしないから」
「今祈ってますよ。神様仏様キリスト様そしてモハメッド様」
「あははははは。だ〜いじゅだよ」
本日の登場人物
ペー。「柳沢さんの分まで」「お〜金井君のもな」 |
矢島兄ぃ。「じゃあ自分は部長の分を」「あ、それは先輩らしいですよ」 |
山田君。「うぉっほっほっほっほ。自分の分を釣りますよ」「だといいけどね」 |
中村先輩。「楽しみだな〜」「不安が…」 |
私。「どうなりますか、なんと言っても先輩と一緒です」「だ〜いじゅだよ」 |
「まずは山田君、3人で向こう側をチャッチャッチャッと釣っちゃってよ」
「え!?いいんですか?すいませんね」
「ペーヨン君、操船は君かい?」
「はい、オレです」
「くれぐれも余計に踏むなよ、エレキを」
「大丈夫です」
「社長、踏んだら、三角絞めしますから」
「いいね。じゃあ先輩、俺らはこっち側で」
「楽しみだなぁ〜」
「社長」
「はい、何でしょう?先輩」
「サウスポーだったんだね、知らなかったよ」
「え!?いやいや、右利きですけど。浅丘めぐみちゃんじゃないから」
「あ!?あ〜左利き〜♪か」
「オレは右利きですけどね」
「じゃなんで左で投げてるの?」
「右で投げると、先輩を釣る可能性がないともいえないでしょう。左ならだいぶ離れるんで」
「左でそれなの?」
「はい。反対方向に進むときは右で投げますよ」
「なるほどな」
「そんなことより、どんどん投げてください」
「いや、その…」
「もうちょっと離しますか?」
「いや、その、まあ…」
(やはり心配事が的中したようで、もはや神頼みは間に合わない)
「先輩!それじゃあ釣りにならないから。厳しく指導するから」
「えぇ、ダメ?」
「話になんないしょ。自分でもわかるでしょ」
「まあ、その…」
「スーパーポヨヨンだから引っかかる。そのあとは届かない。そしてバックラッシュ」
「気が付いてたんだ?」
「当たり前じゃないですか。あれほど言ったでしょ。来る前に」
「いや〜ここまで凄ぇとは思わなかったんだよ。あっちの3人もそんなキャスティングなの?」
「ペーヨンがやや先輩寄りですが、他の2人は抜群ですよ。そのペーヨンだって、やるときはやりますから」
「あそう。俺たち何してたんだろうな」
「社長!」
「おう、噂のペーヨン加藤。何だね?」
「全然反応がないんで、隣に行ってきます」
「歓声があがらないから、変だなあと思ってたんだよ。エレキびんびんに踏んでねえか?」
「いえ、それはないです。兄ぃが試しにグリフォン投げてましたけど、全くです」
「確かにいつもより水温が低いよね」
「じゃ、行ってきます」
「フン!フン!フン!!」
「山田さん、そのうなり声の割りに小さいんですけど。41です」
「黙れ!スカタン」
「これからですよ、オレの出番は」
|
「キタキタキタキタキタキタキタ。アミアミアミアミアミ」
「ど〜れ、アミはど〜こかな。兄ぃ、そこにありますね」
「やまやまやまやま山田さん、はやはやはや早く」
「そんなに巻くなよ、ホレ。あれ!?でか」
「カトちゃん、47cm。あとは39」
|
「あ〜加藤君、手震えてるね」
「山田さん、オレのスマホで写真撮って貰っていいですか?」
「あ〜釣りできねえだろ」
「お〜願いしますよ」
「どれ」
「山田さん、それ反対です」
「面倒くせえな。パシャパシャパシャパシャパシャパシャ。どう?これで」
「山田さん、それ連写じゃないですか」
「いいじゃねえかよ、パラパラ漫画みてえで」
「何はともあれ、こっちに来て正解ですね」
「兄ぃ、冷静な分析ですね。社長達どうしてますかね」
「ええ、ちょっと見てたんですけど、凄かったですよ、先輩が」
「え!?」
「キャスティングですよ。スーパーポヨヨン」
「それ、社長が一番心配してたヤツですね。こいつよりひどかったですか?」
「あはははははは。カトちゃんの方が遥かに上手いですよ」
「どうしてますかね、社長」
「あれ!?加藤君、ずいぶん余裕ぶっこいちゃって。もう送ったの?パラパラ漫画」
「はい。無事送れました」
「ほう。返事は?」
「いや、ちょっと見せらんないです」
「あ〜裸なんだ」
「え〜!?それっておかしいでしょ?何で裸なんですか」
「いいからいいから。どんどん行こう」
「ヤバイね、先輩」
「う、うぅ〜ん」
「メシでも食いますか?腹減ったし、まずは腹ごしらえ」
「う、うぅ〜ん」
「この先に水門が大小取り混ぜていくつかあるんですよ。その周りにルアーが行けば出ますから。くれぐれもびっくりしないでくださいよ」
「だ〜いじゅだよ」
「お、ちょっと元気出てきましたね。その調子でお願いしますよ。テンションさがっちゃいますから」
「う、うぅ〜ん」
「お!出た。のった。よっしゃ〜」
「ボニーのチャート。41cmと42cm。
先輩、オレは釣りましたから、全部投げてください」
「う、うぅ〜ん」
|
「先輩、来ましたよ。水門ですよ。ここは広いから楽勝でしょう。水も流れてるし、どうぞ」
ポヨヨ〜ン。カーン
「え!?そこですか?じゃあそのまま流しちゃいましょう」
ガバッ
「あ〜あ、予想通り、びっくり。じゃあ左側」
ヘローン
ガン
「またそこ〜?そのまま流しちゃって」
ガバッ
「あ〜ややびっくり。真ん中が大きく開いてますから、お願いしますよ」
ポヨーン
カーン
「また遠くまで行きましたね。でもコースはいいですよ。ルアーが死んでなければ」
「あ、死んでますね。じゃ、もう一回」
「先輩、今度はちょっとテクニカルですよ。いい具合に水流れてますよ。U字工事」
「う、うぅ〜ん」
「奥へ入れろとは言いません。出口でいいですから。どうぞ」
ヘローン
ガサガサ
「ま、予想通りだね。そのまま落としちゃって」
チャパ。チャパチャパ
ガバッ
「お、今度は完璧なアワセ。慎重に」
「フン、フン、フンフン」
「いやいや、そんな追いアワセなんかしなくていいですよ。外れちゃうから。ほら〜ね〜言った通り」
「う、うぅ〜ん」
「先輩、良かったですね、釣れて。終了30分前です。ちなみに36cm」
「ほんとだよ。やっと釣れたよ」
「いやいや。何回もばらしてるし、自ら放棄してたじゃないですか」
「そうだよな。社長が投げたら、全部釣れてるよな。全然ダメだな」
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「お〜!あっちチームも帰ってきた」
「お疲れ様です」
「あれ!?ペーヨン君、その軽さからすると、釣れちゃったりしたわけ?」
「はぁ〜い!47と39です」
「あっれ!?マツムシが鳴いている♪はい、山田君!」
「チンチロ、チンチロ、チンチロリン♪ 何やらせるんですか、社長」
「ご協力ありがとうございます。この時期にマツムシが鳴いちゃう位、びっくりしたってことだよ」
「ええ!びっくりですよ。しかも全員2匹づつ釣りましたから。バラシも多数ですよ」
「こっちも、オレが2匹、先輩が1匹無事釣れました。良かったよ」
「ということは、本日の勝者は…」
「ペーヨン加藤君です」
「メシは?」
「はい、サンルーラルの中華で」
「社長よ、そこはうめえの?」
「全然。微妙に進化してるんで、確認に行くわけです。それが八郎に来たときのしきたりです」
「え〜!じゃあさ〜オレが知ってる美味いとこ行かない?」
「あのですね、中村先輩は36cm最低ですね。ペーヨン君は47cmで王者です。選択肢は先輩には全くありません」
「そうだよね。オレがおごらないといけないんだよね」
「そうです。前に説明したゴチバトル敗者の掟です」
「すいません。中村さん。確認したいんで。明日、中村先輩が勝てばいいんですよ」
「中村さん、すみません。こいつ、ゆるキャラなんで」
「だ〜いじゅだよ。今日で分かったから、明日は釣っちゃうよ」
「お願いしますよ、どうか。1つ」
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あとがき
「出て来たね、黒ゴマタンタン麺とチャーハン。どれどれ」
ズルズルルル〜
「う〜ん。進化なし。ただ辛いだけ、全く奥行きなし」
「社長、チャーハンはいけますよ。地味に進化してます」
「どれどれ。お〜。だね」
「社長、中村先輩が今回参加されたってのは何かワケでも?」
「加藤君、君ときどきいい質問をするから。ただのゆるキャラってわけでもないんだね」
「ウォッホッホッホッホ。社長、おっしゃる通りですよ。ただ、ほとんどがムカツクことばっかり、ぬかしやがるんですよ」
「で、先輩だよ。急にさ、連れてけって言い出したんだよ。去年、坐骨神経痛で休んでいたから、のんびり楽しみたいってことらしい」
「そうなんだよ。社長には乱入って言われちゃったよ」
「まさに。オレは奥さんがいいって言ったら、どうぞって言ったわけさ。絶対反対すると思ってさ」
「それがさ〜、2つ返事でOKだったんだよ」
「そんときオレは思ったよ。奥さん、先輩に興味ねえなって」
「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャ。確か奥さんって社長と同級生でしたよね」
「そうだよ。イケイケのお姉さんで、当時スーパースターの先輩を射止めたシンデレラガールって、あっはっはっはっは」
「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャ。社長が笑っちゃあダメじゃないですか」
「だってよ、全く面影がねえだろ。中学2年生のとき、走り幅跳びて6m40cm飛んじゃったんだよ。45年前に」
「え〜!普通なら強化選手ですよね?」
「だろ。でも、先輩、容易じゃないのがキライだから、断っちゃったんだよ」
「凄ぇ」
「今じゃさ〜1mも飛べねえよ。船に乗ってるだけで危ない。落水しそうで」
「アヒャヒャヒャヒャヒャ。社長と一緒じゃ余計にですよね」
「そうなんだよ。社長は凄いよ、1個しか歳違わないのに」
「そのときに条件を出したわけよ。1つ、一切のワガママは許さん。2つ、オレの指示には絶対服従。できますか?先輩って聞いたわけ」
「だ〜いじゅだよ。全然ワガママなんか言わねえから」
「社長、実際のところはどうなんです?」
「山田君、そんな条件を出す位なんだから、わかるでしょ」
「ええ、わかってますよ。確認のために聞いただけですから」
「先輩のさ〜、ご友人とかご同業の人たちが言ってたよ『いいの?』って」
「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ。どうだったんですか?今日は」
「そりゃあ素直ないい子だったよ。ご褒美に36cm釣れたし」
「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ。ご褒美にしては小さくないですか?」
「それはな、釣りしながら文句が多かったんだよ。それでマイナスじゃねえか」
「どんな?」
「ひとえに、自分のふがいなさに対して。『あ』とか『う』とか『何で!』とか」
「それって…」
「そう。『先輩、全部自分が悪いんですよ』って、そのつどいったわけ。先輩は『そうだよな』と反省したのか、しばらく静かになる」
「アヒャヒャヒャヒャヒャ。オレ以下ですね」
「今日はな、明日はわかんないよ。ねえ先輩」
「だ〜いじゅだよ」
「じゃあ宿行くか。明日をお楽しみに〜」
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